家族を救う『手あて』

日本赤十字看護大学名誉教授でナイチンゲール記章受賞者、川島みどり氏の『いま、看護を問う』は、看護の専門性とは何なのか、看護の原点を問い直す本です。

看護の原点ともいえる行為のひとつ、「清拭」について繰り返し述べられているのですが、先日、親しい友人がしてくれた「清拭」の話に感動したので紹介します。 

清拭とは、入浴できない人の体を温かいタオルで拭くことです。看護技術の基礎中の基礎で、最初に教え込まれることのひとつですね。

ただ単に汚れをとるだけではなく、自然治癒力の回復を助ける解剖生理学的な意味のあれこれ、肌に触れるかかわりとしても重要な役割があるうんぬん等々。学生実習では、ここまでやるか!っていうくらい細かく指導された覚えがあります。

今もそうなのかな?

様々な経験を経て、やっと、そのときの徹底指導の意味がわかります。

友人の母上は、数ヶ月の入院生活を経て亡くなられました。

その友人が話してくれたことです。

「後悔は尽きないけれど、入院中にナースがしてくれたことを思い出すと、なんだか心が温かくなる」

「ていねいに、ていねいに、体を拭いてくれて。その手に心がこもっているのがわかる」

「いつ行っても、髪をきれいにとかしてくれていて。ああ、ちゃんと看てくれているってわかる」

「ほんとうによくしてもらったなあ、と思えることで救われている気がする」

 

高度な医療技術をもってしても、命には限りがあります。

たとえ言葉で反応を返すことがなくなっても、ひとりの人として大切に手あてをしてくれた。

そのことが、大切な人を亡くした家族を救っているのでした。

話してくれた友人と、見知らぬナースに感謝しました。